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1
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参加者
Executive Summary
本講義では、アライナー矯正における複雑症例(Class II/III、開咬、舌突出癖など)に対し、AAプロトコルやバイオメカニクスに基づいた具体的な治療戦略、TATSやMARPEの活用法、そして新しいアタッチメントデザインについて詳細に解説されました。
Participants
講師
Discussion
AAプロトコルと治療計画の基本
アライナー矯正におけるAAプロトコルの基本と、テクニシャンとの効果的な連携について解説されました。
- AAプロトコルの概要:
- 全ての症例はAAプロトコルで計画され、複雑な追加要素は最小限に留める。
- メカニクスを理解していれば、アライナー枚数や詳細な移動量の数値に厳密にこだわる必要はない。
- テクニシャンとの連携:
- 「sequential distalization (連続遠心移動)」を意味する「プロトコル」を伝えることで十分。
- Class IIエラスティック使用時にはアンカースクリューをアライナー上に作成する必要がある。
- アンカーロス回避のため、最後方臼歯の遠心移動後にカットアウトを設ける。
- アライナー治療における予測可能性:
- アライナーは従来の治療法よりも予測可能で「スムーズな動き」を好む。
Class II症例の治療戦略(過蓋咬合を伴うBrachyfacial患者)
重度の過蓋咬合を伴うBrachyfacial患者のClass II症例に対する治療戦略が示されました。
- 症例概要: 重度の過蓋咬合、Brachyfacial(短顔傾向)患者。
- 治療計画:
- バイトターボ(Biturbos): 上顎犬歯間部に設置し、過蓋咬合を改善。
- Class IIエラスティック: 下顎第一大臼歯のボタンカットアウトと上顎犬歯間のエラスティックボタンを組み合わせ、下顎臼歯の挺出と垂直的力の付与を促進。
- アタッチメント配置: 遠心移動を行う上顎には垂直アタッチメント、対側の下顎には保持用アタッチメント。
- トリムライン (Trim Line): 標準はスカラップ型。トルク改善にはリファインメントでハイ・トリムラインを要求するが、不快感があるため長期間のケースでは非推奨。
- バイオメカニクスの効果: 咬合平面の時計回り回転を促し、垂直的次元を増加させ、過蓋咬合とClass IIを改善。Curve of Speeのレベリングを促進。
- リファインメント: トルク改善のためのハイ・トリムラインとClass IIエラスティックの併用、前歯咬合調整のためのIPR、Curve of Speeのレベリング。
- オーバーコレクションの回避: 「決してオーバーコレクション(過剰修正)はしない。」理想的で現実的な3Dセットアップを目指す(抜歯症例のみ例外)。
- 治療期間と結果: メイン30枚、リファインメント10枚で1年未満。Class I、正中一致、過蓋咬合修正、スマークアーク改善を達成。
- Class IIエラスティック使用時の上顎前歯の移動計画: エラスティックは上顎前歯を挺出させる効果があるため、挺出させたい場合は「同じ位置に保持」、同じ位置に保ちたい場合は「圧下する」よう指示する。iOrthoのシミュレーションと患者の生体反応のオーバーラップ比較が重要。
Class II症例の治療戦略(重症・外科拒否患者)
重度のClass IIで外科手術を拒否した成人患者の治療戦略について解説されました。
- 症例概要: 重度のClass II、外科手術拒否の成人患者、短顔傾向、下顎後退。
- 課題: 過蓋咬合の増加、横幅不足、長期間の治療。
- 治療計画:
- 拡張、トルクコントロール、遠心移動を実施。
- 仮想的移動(Virtual Jump)の活用: AAプロトコル100%では2年かかるケースを、AAプロトコル50%とVirtual Jump 50%の組み合わせで治療期間を短縮。Virtual Jumpはエラスティックによる生体反応でのClass II改善を見越した計画。
- Mid-course correction(途中修正)の重要性: 「物事がうまくいかない時だけでなく、あまりにも早くうまくいきすぎた時にも必要。」Class Iに早く到達した場合はエラスティックを中止し、再スキャンで新しいアライナーを要求する。
- 過蓋咬合(Overjet)の初期対応: 初期に5mm以上の過蓋咬合がある場合、まず過蓋咬合を減らしClass IIを修正。リファインメントでバイトターボを使用。Brachyfacial患者では初期のバイトブロック(特に後方部)は避ける。
- 下顎の遠心移動とVirtual Jumpの組み合わせ: 下顎第一大臼歯にボタンカットアウト、上顎犬歯と側切歯の間にエラスティックボタン。第二小臼歯のアタッチメントが重要。上顎遠心移動3-4mmとVirtual Jumpの組み合わせでアライナー枚数を短縮。Class IIやClass IIIで30枚以上必要な場合はVirtual Jump 50-50を常に考慮。
- 結果と問題点: Class I達成後、バイトブロック使用による臼歯部の圧下が生じる場合がある。リファインメントでバイトターボを使用してCurve of Speeと過蓋咬合を改善。「バイトターボがなければ過蓋咬合の改善は見られない。」
咬合平面の回転(Rotational Occlusal Plane)の概念
従来の3平面に加えて「咬合平面の回転」の重要性が強調されました。
- 従来の教育との違い: 大学教育ではAP、Transverse、Verticalの3平面で全てを説明するが、現実の治療では「咬合平面の回転」が重要。
- 重症Class II/Class III症例への応用:
- 純粋なAP移動だけでは限界がある。咬合平面を回転させることで、骨の中に歯列弓を維持したままClass Iを達成できる。
- Class IIエラスティック: 歯列弓を時計回り(clockwise)に回転させる。
- Class IIIエラスティック: 歯列弓を反時計回り(counter-clockwise)に回転させる。
- 短期間エラスティック(Short Elastics)の選択: 純粋なAP移動よりも、咬合平面の回転効果を重視する考え方で、不可能と思われた重症ケースも解決可能になる。
小児(成長期)のClass II治療:ASICSプロトコル
小児のClass II症例における早期治療の意義とASICSプロトコルが紹介されました。
- 早期治療の意義: 講師は早期治療を支持し、問題があればできるだけ早く治療を開始すべきと提唱。患者の協力は後の段階で得られる可能性もある。
- ASICSプロトコル: 下顎前方誘導(Mandibular Advancement)を行う。他のシステムが複数ステップで行う前方誘導を、ASICSでは1ステップでできるだけ多くの期間を費やすことを理想とする。
- バイトブロックのデザイン:
- 初期の短い前歯部バイトブロックは推奨しない(前歯の圧下、Curve of Speeの深化を招く)。
- 「ロング・フラット・後方配置」のバイトブロックを推奨。目的は下顎の前方ガイドとCurve of Speeのレベリング、臼歯部の圧下防止。
- Angel buttonsとClass IIエラスティックの併用: Class IIの解決ではなく、睡眠時に下顎を正しい前方位置にガイドすることが目的。3/16インチ、2.5オンスのエラスティックを使用。
- ASICSプロトコルの2段階:
- 第1段階 (Mandibular Advancement): 歯列弓の拡大、対称化、叢生・回転の解決、Curve of Speeのレベリングが目標。短期間でClass IIが改善される場合があるが、これは「整形外科的効果」ではない。
- 第2段階 (Stabilizing): 第1段階で達成できなかったレベリング、叢生、拡大を完了させる。整形外科的効果には最低1年~1年半、2年かかるため、「Class Iが早く達成されても、それが真の整形外科的効果ではない」ことを認識し、アライナー使用期間を延長する(例:2週間交換、受動的なアライナー追加)。
- リテーナー: 後戻り防止に必須。小児では「萌出補償(Eruption compensator)」機能付きリテーナーが必須。
Class III症例の治療戦略(重症・外科拒否患者、舌突出癖)
重度のClass III、外科拒否、開咬、舌突出癖を伴う成人患者の治療戦略が説明されました。
- 症例概要: 重度のClass III、成人患者、外科拒否、開咬、舌突出癖、歯周病、交叉咬合。
- 治療計画:
- 上顎前歯の挺出、後方臼歯の圧下などによる拡張。
- 舌突出癖のリハビリテーション: アライナー治療と並行してセラピストと連携。成人では困難な場合が多い。
- 後戻り防止のためのリテーナー: 舌突出癖による後戻りを防ぐため、「ポジションナー」型リテーナーを使用。犬歯と臼歯間をレジンで連結したデーモン型スプリント、または2つのESSYXを組み合わせたもの。患者には一生使用の必要性を説明。
- エラスティックの活用:
- Criss-cross elastics / Box elastics: 上顎6・7番口蓋側と下顎6・7番頬側にボタンカットアウトを施し、3/16インチ、6オンスのエラスティックを使用。
- Direct bonding buttons vs Angel buttons: Direct bonding buttonsを推奨(プロファイルが低く快適、歯肉側接着でバイオメカニクス的に優位)。
- Class III elastics: Transverse問題解決後に開始。3/16インチ、4.5オンス、中程度の力。力より使用時間を重視。Class IIIエラスティックとHPOアタッチメントによる上下顎前歯の挺出を組み合わせ、開咬を減少させる。
- 咬合ツールの活用: iOrthoの「Occlusion tool」は予測可能な結果を得るために有効。臼歯部の不適合や咬合干渉を防ぐ。
- 結果と期間: メイン32枚、リファインメント9枚で1年半未満。「Pro」アライナーにより期間短縮。骨格的問題は残るものの笑顔は改善。
開咬症例とTATS(歯列矯正用アンカースクリュー)の活用
成人開咬症例におけるTATS(歯列矯正用アンカースクリュー)の活用法が解説されました。
- 症例概要: 成人患者、開咬、外科拒否、患者の協力度が低い。
- 治療計画:
- TATSの活用: 患者の協力が得られないため、TATSを用いて後方歯の圧下を補助。
- 上顎前歯の挺出: 逆スマイルアークと開咬を改善し、下唇との距離を縮める。
- 臼歯部圧下: TATSを使用するため、バイトブロックを配置しない場合もある。
- HPOアタッチメント: 上下顎前歯の挺出を促す。
- バイオメカニクス:
- Class IIエラスティックと侵入エラスティックの同時使用: 全てを同時に行う。
- TATSから歯に力を加えることで、力が100%歯に伝わる。TATS2本で遠心移動と侵入を同時に行う。
- TATSの種類:ボタンヘッドTATS(侵入に便利)、ブラケットヘッドTATS(セクショナルやアーチワイヤー併用時)。
- 前歯部のトルクコントロール: Class Iの改善と侵入によりトルクを失う可能性があるため、上顎前歯にはHPOアタッチメントを使用。アーチ全体を侵入させる場合、ハイ・トリムラインは侵入を妨げるため使用しない。
- 後方バイトブロックの併用: Class Iと適切な過蓋咬合達成後も上顎歯列弓の侵入を継続する場合、後方バイトブロックと侵入エラスティックを併用し、後方歯と上顎前歯の侵入を継続しつつ過蓋咬合を維持する。
- TATSの配置: CBCTで神経、上顎洞、皮質骨を確認し、最適な配置を計画。TATSはAngel buttonsよりもタップ・トゥ・タップ(TATS間)での牽引が効果的。
- 結果: リファインメント3回(最終7枚)を経て、完璧ではないが良い状態。患者の協力度により結果が大きく左右される。
MARPE(MARFI)を用いた顎拡大
MARPE(歯槽骨皮質骨スクリュー固定型急速口蓋拡大装置)を用いた顎拡大について説明されました。
- MARPEの利点: 骨格的な問題を解決するための優れた補助手段。ブレースとアライナーの両方に有効。10-12歳以上の骨格的拡大が必要な患者に最適。骨格的拡大と歯の移動を統合できる。
- MARPEプロトコル: デザイン・設置後、2週間で望ましい拡大結果を得る。口腔内スキャナーと写真でデータ取得後、上顎リテーナー(ESSYX)装着でアライナー治療開始。スクリューは9ヶ月間保持後除去。
- 適応年齢とデザイン:
- 小児: 2本のスクリューを前歯部に、2本のアームを第一大臼歯に固定。標準スクリューを使用。
- 成人(18歳以上): 4本のスクリュー(前方2本、後方2本)、4本のアーム(第一小臼歯と第一大臼歯)。
- 重症・高齢患者(40歳以上、強固な縫合線): MARPE設置前に骨切術(ピエゾ電気システムを用いて口蓋と切歯間の縫合線を切断)を行う。
- MARPEとアライナー治療の統合: MARPEの外科的ガイドによりTATS埋入が容易。拡大後にアライナー治療を開始することで治療期間短縮。MARPEによる上顎の前方移動効果も期待できる(Class IIには有利、Class IIIには不利)。
- 拡大後の問題と対策: 拡大後に臼歯部に開咬が生じることがあり、Class IIIエラスティックやIPRで咬合を整える。
新しいアタッチメントデザイン:ティッピングコントロールの改善
大規模な拡大後の前歯ティッピングコントロールの課題と、新しいアタッチメントデザインが提案されました。
- 課題: 大規模な拡大後、特に前歯のティッピング(傾斜)コントロールが難しい。アライナー矯正ではブレースと比較してティッピング修正が困難。
- 従来のティッピングアタッチメントの問題: 2つの力が歯の抵抗中心の同じ側に作用するため、保持力がなく効果が低い。
- 新しいアタッチメントの提案:
- 2つのローブを90度回転させて配置。一方を抵抗中心の片側に、もう一方を反対側に配置することで、歯肉側(gingival lobe)のローブが保持力を提供し、コントロールを維持。
- レバーアームが長くなり、力のモーメントが増加するため、バイオメカニクス的に優位。
- 適用: 前歯だけでなく、犬歯、小臼歯、大臼歯にも使用可能。下顎切歯はサイズの問題で使用できない場合がある。
- 効果: アライナー30枚で切歯のティッピングが効果的に修正される。学術論文も発表されている。
MARPEと重症Class III症例(成人患者)
MARPEとアライナー矯正を組み合わせた重症Class III症例の治療戦略が示されました。
- 症例概要: 31歳成人患者、重度の骨格性反対咬合、ブラキフェイシャル、上顎歯肉退縮、巨大な下顎。
- 課題: 骨格性反対咬合のためアライナー単独での補償は困難。歯肉退縮があるためアライナー単独での拡大はリスク。
- 治療計画:
- MARPEによる骨格性拡大: 成人患者のため、より強力なスクリュー(Power screw)を使用。4本のスクリューと4本のアームで、外科手術なしで予測可能な拡大を得る。
- 拡大後、アームを切断し、スクリューは9ヶ月間保持。その後、アライナー治療を開始。
- アライナー治療: MARPEによる拡大で生じた後方の開咬を、Class IIIエラスティックと下顎IPRで整える。A8プロトコルに従う。
- 治療期間と結果: MARPE後、メインステージ30枚のアライナー。最終結果は改善が見られるが、外科ケースであるため限界もある。
Decisions
決定事項なし
Action Items
Key Quotes
決してオーバーコレクション(過剰修正)はしない。
— 講師
物事がうまくいかない時だけでなく、あまりにも早くうまくいきすぎた時にも必要。
— 講師
咬合平面を回転させることで、骨の中に歯列弓を維持したままClass Iを達成できる。
— 講師